猫の口臭が急にきつくなった、歯ぐきが赤く腫れている、よだれに血が混じっている——
そんな様子に気づいたとき、多くの飼い主様はまず「ひどい口内炎かな?」と考えるのではないでしょうか。
実際、症状だけを見ると口内炎と非常によく似ています。しかし、その背後には「口腔内扁平上皮癌」という悪性腫瘍が隠れていることがあります。
これは猫の口の中にできる腫瘍の中でも比較的多く見られる病気で、進行すると食べることそのものが難しくなってしまい、命の危険もある厄介な腫瘍です。
この記事では口の中に発生する扁平上皮癌について、症状の見分け方や検査・治療の流れを経験豊富な獣医師が詳しく解説します。

猫の口腔内扁平上皮癌とは|口の中にできる悪性腫瘍
扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)とは、口腔粘膜や歯肉など、体の表面を覆う細胞(扁平上皮)から発生する悪性腫瘍です。
猫の口腔内にできる腫瘍の中では発生頻度が高く、以下のような口内のさまざまな場所に発生します。
・歯肉
・舌の下
・頬の粘膜 など
この病気が厄介なのは「口の中」という場所の特性上、飼い主様が日常的に確認しづらく、発見が遅れやすい点です。
猫は犬と比べて口の中を確認させてくれることが少なく、痛みがあっても我慢強く隠してしまう動物でもあります。
そのため、気づいたときにはすでにある程度進行しており、口の痛みから食欲が落ち、体重減少や活動性の低下にまでつながってしまうケースも少なくありません。
「口の中の病気」というと歯周病や口内炎などの病気のイメージから軽く考えられがちですが、食べられなくなることは猫の体力や生活の質(QOL)に直結する大きな問題です。だからこそ、早期発見・早期受診が重要になります。
口内炎と間違われやすい症状|受診を考えたいサイン
口腔内扁平上皮癌は、次のような症状で気づかれることが多くあります。
✓ 口臭が急に強くなった
✓ 口の中から出血する、血の混じったよだれが出る
✓ 歯肉が赤く腫れる、盛り上がって見える
✓ 片側だけ腫れている、口の形や顔つきに左右差がある
✓ 食べ物をこぼす、硬いフードを避ける、食欲が落ちる
✓ 口の中に単純な炎症とは違う「盛り上がり」や「しこり」がある
✓ くしゃみや鼻水など、風邪のような症状
こうした症状は「歯周病」や「口内炎」の症状ともよく似ており、見た目だけで炎症か腫瘍かを判断することはできません。
特に、片側だけに症状が偏っている場合や、通常の歯周病治療を行ってもなかなか改善しない場合は、注意が必要なサインのひとつです。
「様子を見ていたら治るかもしれない」「歳のせいで口が汚れやすくなっただけかもしれない」と考えているうちに進行してしまうことも珍しくありません。
猫が口を気にしている様子が見られたり、食べ方や食欲の変化に気づいたりしたら、自己判断せずにすぐにかかりつけ医へ相談することをおすすめします。
診断の流れ|生検で隠れた疾患を確認
口腔内の異変が疑われる場合、当院では次のような流れで検査を進めていきます。
1. 問診と視診
まずは症状がいつから始まったか、痛みを感じている様子、出血の有無、食欲や体重の変化などを詳しく伺い、可能な範囲で口の中を視診します。ただし、猫は痛みを嫌がって十分に口を開けさせてくれないことも多く、この時点でわかる情報には限りがあります。
2. 血液検査
腫瘍が疑われる場合は、全身状態を把握することが大切です。この後に行う鎮静・麻酔のリスクを評価するためにも血液検査を行います。特に高齢の猫では、麻酔前の全身状態の確認が欠かせません。
3. 鎮静下での精査と生検
猫の口の中を安全にしっかりと確認するには、鎮静または麻酔が必要です。
鎮静下で口腔内全体を詳しく観察し、腫瘤の大きさや範囲を確認したのち、コア生検(組織の一部を切り取って調べる検査)を行い、外部の病理検査会社に提出します。
4. レントゲン検査
レントゲン検査を行い、顎の骨への浸潤の有無や、周囲組織の状態、また胸部レントゲンにて肺への転移などを確認します。
生検の結果、扁平上皮癌ではなく、慢性歯肉炎や重度の口内炎、あるいは線維肉腫など、別の疾患であることが判明する場合もあります。
「腫瘍なのか炎症なのか」「腫瘍だとすればどの種類なのか」によって、その後の治療方針は大きく変わります。
だからこそ、見た目や症状だけで判断せず、早い段階で正確に見極めることが重要です。
治療方針と向き合い方|手術・紹介・緩和ケアまで選択肢を整理
腫瘍のできた場所や広がり方、食事への影響、猫の年齢や全身状態、そして生活の質を総合的に踏まえたうえで、治療方針を検討していきます。
ここでは、口腔内扁平上皮癌における治療の選択肢をいくつかご紹介します。
外科手術にて切除を行うケース
口腔内扁平上皮癌の治療は、外科手術が中心となることが多くあります。
ただし、同じ「口腔内扁平上皮癌」であっても、腫瘍ができる場所によって手術のしやすさは大きく異なります。
たとえば、下顎の先の方にできた場合は、部分的な切除である程度の範囲を確保しやすい傾向にあります。
一方で、舌の付け根や上顎、口の奥まった部分にできた場合は、周囲に神経や血管など重要な組織が多く、十分な範囲の切除が難しいことがあります。
また、口や顎周りの手術を行った後は、食欲低下や術後の管理が難しくなりやすいという側面もあります。
長期的な栄養管理が必要な場合は、食道につながるチューブを用いて食事を補うこともあり、費用面も含めて飼い主様としっかり相談しながら進めていきます。
◆ 顎の切除を伴う手術の場合
手術によって顎の一部を切除するケースもあります。その場合は術後の食事の摂り方や生活への影響、また見た目の変化についても飼い主様としっかりと相談したうえで進めてまいります。
実際には、下顎を部分的に切除した猫でも、穏やかに過ごしながら、時間をかけて食べ方に慣れていくケースもあります。しかし、少しでも顎を切除したことにより、全く食事をしなくなるケースもあり、慎重な対応が必要です。
手術後にどのような変化が見込まれるのか、具体的な経過や事例について知りたいことがあれば、獣医師へ遠慮なくお尋ねください。
放射線治療を行うケース
また、放射線治療が選択肢に入ることもあります。当院では放射線治療は実施しておらず、必要に応じて対応可能な専門施設へご紹介いたします。
猫の口腔内扁平上皮癌は、放射線治療を行っても期待するほどの効果が得られにくいケースがあることも報告されており、実施するかどうかは慎重な判断が求められます。
当院としては、安易に勧めるのではなく、そのメリットと費用面などのデメリットを正直にお伝えしつつ、飼い主様と一緒に考えていきたいと考えています。
手術を選択しないケース
手術や放射線治療が難しい場合、あるいは飼い主様がそうした積極的な治療を望まれない場合には、消炎鎮痛剤を用いて腫瘍による痛みや炎症を和らげる緩和療法を続けながら、経過を見ていくという選択肢もあります。
腫瘍そのものをなくす治療ではありませんが、その子の負担をできるだけ抑えながら、穏やかに過ごせる時間を支えるための大切な手段のひとつです。
パル動物クリニックでは、犬猫がんセンターを併設し、腫瘍科診療や麻酔管理に力を入れている獣医師が在籍しています。また、外部の二次診療施設への連携も行っているため、一般診療で気づいた異変から専門的な治療までフォローできる体制を築いています。
どの選択肢を選んだとしても、その子と、そのご家族にとって何が一番良いのかを、一緒に考えていくことを心がけておりますので、安心してご相談ください。
まとめ|「ひどい口内炎かも」と思った段階で早めの受診を
猫の口腔内扁平上皮癌は、口臭や出血、歯肉の腫れなど、口内炎とよく似た症状で見つかることが多い腫瘍です。
厳しい経過をたどることもある病気だからこそ、早期に検査を行い、治療の選択肢を整理しておくことが何より大切になります。
「ただの口内炎だろう」と様子を見てしまいがちな症状こそ、実は早期発見の大切なサインかもしれません。
当院は、何気ない症状からでも悪性腫瘍のような重篤な病気の早期発見につなげることを大切にしています。碧南市や近隣地域の身近なかかりつけ医でありながら、より良い獣医療を提供できるよう努めていますので、愛猫の様子で気になることがありましたら、お気軽に当院までご相談ください。
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🐾監修者情報
監修:パル動物クリニック 院長 伊藤 祐典
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